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外壁のメンテナンスコラム

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  2. 防水工事の脱気装置とは?役割や必要性を現場のプロが解説

防水工事の脱気装置とは?役割や必要性を現場のプロが解説

まとめ:防水工事の脱気装置で建物を守る

こんにちは。ステップペイントの現場担当 土橋 昭です。

屋上やベランダの防水工事を検討されているお客様から、見積書に含まれる「脱気装置」や「脱気筒」という項目についてご質問をいただくことがよくあります。

普段あまり聞き慣れない専門用語ですので、一体どのようなもので、本当に自宅の工事に必要なのかと疑問に思われるのも無理はありません。

しかし、この小さな装置こそが、防水工事の成否を分けると言っても過言ではないほど重要な役割を担っています。

防水工事における脱気装置は、建物の寿命を延ばし、雨漏りなどの深刻なトラブルを未然に防ぐために、非常に重要な機能を果たしています。

もし設置を怠れば、せっかく新しくした防水層が数年でダメになってしまうことさえあるのです。

この記事では、現場で数多くの防水工事に携わってきた私の経験をもとに、脱気装置の基礎知識から、プロが実践している設置基準までをわかりやすく、かつ詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

記事のポイント

  • 防水工事で脱気筒が絶対に必要な理由と具体的な役割
  • ウレタン防水やアスファルト防水など工法による脱気筒の違い
  • 脱気装置の適切な設置基準(平米数)や費用の目安
  • 施工後のメンテナンス方法や点検すべきポイント
目次

防水工事に欠かせない脱気装置の役割と仕組み

防水工事における脱気装置は、施工後のトラブルを防ぎ、建物を長期的に保護するための重要なパーツです。

ここでは、なぜ脱気筒が必要なのか、その科学的なメカニズムや工法ごとの違いについて、現場の視点から詳しく深掘りして解説します。

脱気筒とは何か?

脱気筒(だっきとう)とは、防水層の下に溜まった湿気や水蒸気を外部へ効率的に逃がすために設置される、筒状の排気装置のことです。

材質は主に耐久性の高いステンレス製やアルミ合金製、あるいは塩ビシート防水となじみの良い樹脂製(塩化ビニール製)などが用いられ、屋上やベランダの床面から数十センチほど飛び出した形で取り付けられます。

建物の屋上スラブ(コンクリート下地)には、私たちが想像している以上に多くの水分が含まれています。

新築時の余剰水分だけでなく、経年劣化によるひび割れから浸入した雨水や、生活空間からの湿気などが内部に滞留しているのです。

この水分が夏場の強力な太陽熱で温められると、気化して「水蒸気」となり、その体積は液体の状態に比べて約1,700倍にも膨れ上がろうとします。

もし防水層で密閉して逃げ場をなくしてしまうと、その凄まじい膨張圧力は防水層を下から押し上げ、「膨れ(ブリスター)」という現象を引き起こしてしまいます。

脱気筒は、防水層と下地の間に空気の通り道(通気層)を確保し、発生した水蒸気圧をスムーズに外へ排出する、いわば「建物の呼吸口」や「煙突」のような役割を果たしているのです。

ここがポイント:逆止弁の機能

脱気筒の多くは、単なる筒ではありません。内部には特殊な構造や逆止弁が設けられており、「内部からの湿気は出すが、外部からの雨水や虫は入れない」という一方通行の機能を持っています。

これにより、豪雨の際でも防水層内部への浸水を防ぐことができます。

脱気筒とは何か?
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

防水層の膨れを防ぐ脱気装置の必要性

防水層に発生する「膨れ」を放置することは、建物の寿命を縮める大きなリスクとなります。膨れは単に見栄えが悪いだけではありません。

膨れ上がった防水層は、素材が常に引き伸ばされた状態にあるため、厚みが薄くなり、弾力性も失われていきます。

さらに、昼間の熱膨張と夜間の収縮を繰り返すことで防水材が疲労し、最終的には破断してしまいます。また、膨れた部分をうっかり踏んでしまったり、強風時の飛来物が当たったりすれば、容易に穴が開いてしまいます。

一度防水層が破れれば、そこから雨水がダイレクトに侵入し、最悪の場合は雨漏りやコンクリート躯体の腐食につながるのです。

特に、既に雨漏りが発生している建物や、築年数が経過してコンクリートが水分を多く含んでいる改修工事の現場では、脱気装置の設置は「推奨」ではなく「必須」と言えます。

脱気装置を適切に設置することで、防水層の膨れを未然に防ぎ、防水材本来の耐久年数を全うさせることができるのです。

(参考:塗膜防水通気緩衝工法のふくれ圧力低減効果の評価方法の開発|日本建築学会構造系論文集)

ご自宅の屋上やベランダに「膨れ」がないか心配な方は、専門家による診断をおすすめします。

ステップペイントでは、経験豊富な職人が、防水層の劣化状況や膨れの有無を無料で点検いたします。点検内容の詳細については、『外壁・屋根の無料点検!お住まいの状態をプロが丁寧にチェック』の記事をご確認ください。

密着工法と絶縁工法の違い

防水工事には、大きく分けて「密着工法」と「絶縁工法(通気緩衝工法など)」の2種類のアプローチがあります。脱気筒が必要になるのは、主に後者の絶縁工法を採用する場合です。

工法名特徴・仕組み脱気筒の要否と理由
密着工法プライマー(接着剤)を用いて、下地コンクリートと防水材を完全に接着させる工法。
コストを抑えられるが、下地の水分や動きの影響を直接受ける。
標準仕様では設置しない
下地と密着させるため通気層がなく、一般的なメーカー仕様では脱気筒を設けないのが基本です。ただし、既存下地に水分が多いなど膨れのリスクが高い場合は、通気緩衝シートを併用した絶縁工法に切り替えるなど、別途脱気計画を行うことが推奨されます。
絶縁工法
(通気緩衝工法など)
下地と防水層の間に「通気緩衝シート」などを挟み、部分的または機械的に固定する工法。
下地の湿気を逃がし、地震などの挙動にも追従する。
必須
シートを通して集められた湿気の最終的な排出口として、脱気筒が不可欠となる。

密着工法の場合、下地に水分が残っていると、その水分が直接防水層を押し上げて膨れの原因になります。

そのため、密着工法は新築や十分に乾燥した下地に限定されます。一方、リフォームなどの改修工事では下地が湿っていることが多いため、絶縁工法を採用し、脱気筒とセットで施工するのが一般的です。

密着工法と絶縁工法の違い
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

ウレタン防水の通気緩衝工法

マンションの屋上やベランダ改修で最も多く採用されているのが、ウレタン防水の「通気緩衝工法(絶縁工法)」です。

この工法では、裏面に特殊な溝加工や不織布がついた「通気緩衝シート」を下地に貼り付けます。このシートが湿気の「通り道」となり、面全体から発生する水蒸気をキャッチして脱気装置へと誘導します。

その後、シートの上からウレタン防水材を厚く塗り重ねて、継ぎ目のないシームレスな防水層を形成します。このシステムにより、下地の水分が多い状態でも膨れを起こさず、強靭な防水層を作ることが可能です。

横浜市をはじめとする関東エリアの改修工事でも、その信頼性の高さから標準的に採用されています。

ウレタン防水の通気緩衝工法については、『横浜市の防水工事はサラセーヌで!屋上施工のプロが解説』の記事でも実際の施工事例を交えて詳しく紹介しています。どのような工程で進むのかイメージしやすいかと思います。

アスファルト防水やシート防水での利用

ここまで主にウレタン防水を例にお話ししてきましたが、脱気装置が活躍するのはそれだけではありません。

マンションの屋上などでよく見かける「アスファルト防水」や「シート防水(塩ビシート・ゴムシート)」においても、工法によっては脱気装置が非常に重要な役割を果たします。それぞれの防水材の特性に合わせた使われ方を見ていきましょう。

1. アスファルト防水における脱気装置

アスファルト防水は、溶解したアスファルトと防水シートを積層する、最も歴史があり信頼性の高い工法です。

しかし、施工時に200℃以上の高熱を扱ったり、黒色仕上げで太陽熱を吸収しやすかったりするため、下地の水分が急激に温められて膨張しやすいという特徴があります。

アスファルト防水での主な設置ケース

あなあきルーフィングを用いた「絶縁工法」

下地に一番近い層に、無数の穴が開いた「あなあきルーフィング」という特殊なシートを敷きます。

これにより、アスファルトが点接着となり、接着していない部分が空気の通り道となります。この通り道の出口として、脱気筒が設置されます。

露出断熱工法

断熱材を挟み込む場合、断熱材の下やジョイント部分に湿気が溜まりやすいため、脱気装置による排圧が不可欠です。

アスファルト防水用の脱気筒は、重厚な防水層に対応するため、ステンレス製や鋳鉄製などの頑丈なものが多く使われます。

2. シート防水(塩ビシート)の場合

近年、ビルやマンションの屋上改修で主流となっている「塩ビシート防水」ですが、ここでは特に「機械的固定工法」という施工方法と脱気筒が切っても切れない関係にあります。

機械的固定工法とは、接着剤でベタっと貼るのではなく、専用のディスク盤(固定金具)を使って、シートを下地から数センチ浮かせた状態で固定する工法です。つまり、「シートの下全体が巨大な空気層」になっているようなものです。

塩ビシート防水ならではのメリット

この工法では、シートの下全体で空気が自由に行き来できます。もし脱気筒がないと、温められた空気が膨張してシート全体が風船のようにパンパンに膨らんだり、強風でバタついたりしてしまいます。

また、塩ビシート防水の大きな強みは、「脱気筒と防水シートを一体化できる」点です。

塩ビ製の脱気筒を使用し、熱風溶接機でシートと脱気筒を溶かしてくっつけることで、継ぎ目のない完全な防水層を作ることができます。異素材を組み合わせる他の防水よりも、接合部の安心感は非常に高いと言えます。

3. ゴムシート防水の場合

ゴムシート防水は、現在は新築であまり採用されなくなりましたが、既存の改修工事ではまだ見かけます。ゴムシートは薄いため、下地の水分による膨れが目立ちやすい素材です。

密着工法が一般的ですが、改修時に通気テープなどを下に入れ込み、脱気筒を設置して膨れ対策を行うケースもあります。

アスファルト防水やシート防水での利用
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

屋内防水や塗膜防水における脱気筒

脱気筒というと、屋上で銀色の筒が立っている姿をイメージされる方が多いと思います。では、浴室や厨房といった「屋内防水」や、戸建て住宅のバルコニーで主流の「FRP防水」の場合、脱気筒は必要なのでしょうか?

結論から申し上げますと、原則として屋内や木造バルコニーには脱気筒を設置しません。

しかし、建物の構造や下地の種類によっては例外的に必要となるケースがあり、ここを誤ると施工後に大きなトラブルに発展することがあります。現場のプロとして、その判断基準を詳しく解説します。

なぜ屋内防水には脱気筒が不要なのか?

浴室、トイレ、厨房などの屋内防水では、基本的に「密着工法」が採用され、脱気筒は設置されません。これには物理的な理由があります。

熱による膨張圧力がかからない

防水層が膨れる最大の原因は、下地の水分が「太陽の熱」で温められ、急激に体積膨張することです。直射日光が当たらない屋内では、このような急激な温度変化が起きないため、強力な蒸気圧が発生するリスクが極めて低いのです。

衛生面とスペースの問題

厨房や浴室の床に突起物(脱気筒)があると、つまづいて転倒する危険があるだけでなく、清掃がしにくくカビや汚れの温床になってしまいます。

したがって、屋内の防水工事では、下地と防水材を強力に接着させる「密着工法」で、水の浸入をシャットアウトすることに専念するのが一般的です。

FRP防水(塗膜防水)における設置の考え方

硬くて丈夫なFRP防水(繊維強化プラスチック防水)の場合、下地が「木」か「コンクリート」かで判断が大きく分かれます。

下地の種類主な建物脱気筒の要否理由
木造下地 (合板など)一般的な戸建て住宅のベランダ不要木材自体がある程度の調湿機能を持ち、バルコニー裏側の軒天などから湿気が逃げる構造になっているため、密着施工でも膨れにくい。
RC下地 (コンクリート)鉄筋コンクリート造のマンション、ビルのバルコニー要注意 (条件により必要)コンクリートは水分を保持しやすい。密閉性の高いFRPで蓋をすると、逃げ場を失った湿気で「膨れ」が発生するリスクが高い。

【プロの注意点】RC造バルコニーをFRPで改修する場合

ここで最も注意が必要なのが、「鉄筋コンクリート(RC)造のバルコニーを、FRP防水で改修工事する場合」です。

FRP防水層は非常に硬く、水蒸気をほとんど通しません。もし、水分を含んだコンクリート下地に直接FRPを密着させてしまうと、後から確実に膨れてきます。しかもFRPは硬いため、膨れると「バリッ」と割れてしまうことがあります。

そのため、RC造の改修でFRP防水を採用する場合は、ウレタン防水と同様に「通気緩衝シート」を挟み込み、脱気筒(または脱気盤)を設置する特殊な工法を採用する必要があります。

もし業者から「FRPは強いからそのまま塗っても大丈夫」と言われたら、下地の水分対策はどうなっているのか、必ず確認するようにしてください。

FRP防水を含む各工法の施工日数や詳しい流れについては、『ベランダ防水工事の日数は?工法別の目安と流れを解説』の記事をご覧ください。

公共建築工事標準仕様書のX-1とX-2の違い

少し専門的な話になりますが、公共工事の仕様書(公共建築工事標準仕様書)には、ウレタン防水の工法として「X-1」と「X-2」という記号が定義されています。

これを知っておくと、見積書の仕様が適切かどうかを判断する材料になります。

仕様書における記号の意味

X-1(通気緩衝工法)

通気緩衝シートを併用し、脱気装置を設置する工法です。下地の水分による影響を絶縁できるため、改修工事や屋上防水において最も信頼性が高い仕様として推奨されます。(参考:公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版)

X-2(密着工法)

補強布(メッシュ)を用いてウレタン防水材を塗布する工法です。通気層がないため、脱気装置は設置しません。比較的水分が少ないベランダの立上がり部や、新築時の乾燥した下地などで採用されます。

メーカーによる部品や材料の種類

脱気筒には様々なメーカーの製品があり、材質や形状も多岐にわたります。それぞれの特性を理解し、現場に適したものを選ぶことが大切です。

  • ステンレス製
    最も耐久性が高く、錆びにくいため長期間の使用に適しています。公共工事やマンションの大規模修繕ではステンレス製(SUS304など)が標準的に採用されます。
  • アルミ合金製・鋳鉄製
    耐久性はステンレスに次ぎますが、コストパフォーマンスに優れています。
  • 樹脂製(塩ビ製など)
    塩ビシート防水専用のものが多く、シートと熱風溶接で一体化できるのが最大のメリットです。

また、形状については一般的な円筒形(高さ15cm〜20cm程度)のほかに、歩行の邪魔にならないよう背を低くした「ディスク型(脱気盤)」もあります。

ただし、ディスク型は高さがないため、大雨の際に水没してしまうリスクがある点には注意が必要です。

メーカーによる部品や材料の種類
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

防水工事における脱気装置の設置基準と施工方法

脱気装置はただ設置すれば良いというわけではありません。効果的に湿気を排出するためには、適切な数を、適切な場所に配置する必要があります。

ここでは具体的な設置基準や、施工のプロが意識しているポイントについて解説します。

設置基準とm2あたりの数量目安

脱気筒の設置数量そのものは、日本建築学会の「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事」や公共建築工事標準仕様書では、建物ごとに設計者が定める「特記」に委ねられており、一律の数値までは規定されていません。

そのため、実際の現場では各防水材メーカーの仕様書や設計要領を基準に、面積と下地の状態に応じて本数を決めるのが一般的です。

多くの防水材メーカーの標準仕様では、ウレタン防水やシート防水の通気緩衝工法の場合、おおよそ「50㎡〜100㎡につき1個」程度を基本とし、下地の含水が多い改修工事ではさらに間隔を詰めることが推奨されています。

(参考:〖防水不具合低減!〗ふくれ現象が低減する脱気装置の使用方法|日新工業)

設置数量の目安と計算方法

  • 一般的な屋上(平場)
    50㎡〜100㎡ごとに1箇所を目安に設置します。
  • 湿気が多い下地・改修工事
    膨れのリスクが高いため、25㎡〜50㎡ごとに1箇所と、やや密度を高めて設置します。
  • 小規模なベランダ
    面積が小さくても、通気緩衝工法を行うなら湿気の逃げ口として最低1箇所は必要です。

例えば、150㎡の屋上であれば、標準的な条件なら3個前後、下地の含水が多い場合はもう少し多めに計画する、といったイメージになります。

逆に面積が狭くても、湿気の逃げ道を確保するために最低1個は必要になるケースがほとんどです。

正しい施工手順と工程の流れ

ウレタン防水通気緩衝工法を例に、脱気筒を取り付ける標準的な手順をご紹介します。

  1. 位置決め・穿孔(せんこう)
    設置場所を決定し、振動ドリルを使って下地コンクリートに穴を開けます。これは単に固定するための穴ではなく、コンクリート内部の湿気を吸い上げるための重要な通気孔となります。
  2. 通気緩衝シートの切り欠き
    通気緩衝シートを敷設した後、脱気筒を設置する部分だけシートを丸く切り抜きます。これにより、シートの下を通ってきた湿気がここから立ち上がれるようにします。
  3. 取り付け・固定
    脱気筒本体を設置し、アンカープラグとステンレスビスを用いて下地に強固に固定します。エポキシ樹脂などで接着力を高める場合もあります。
  4. シール処理・補強(重要工程)
    脱気筒の足元(フランジ部分)と防水シートの継ぎ目を、ウレタンシーリング材で埋めます。さらに、補強用クロス(メッシュ)を貼り付け、防水材と一体化させます。ここが甘いと、脱気筒の隙間から雨水が侵入する原因になります。
  5. 防水材の塗布・仕上げ
    最後にウレタン防水材を立ち上がり部分まで丁寧に塗り込み、トップコートで仕上げて完了です。
正しい施工手順と工程の流れ
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

図面で確認すべき配置と留意点

防水工事の計画段階や、手元にある図面を確認する際、絶対にチェックしていただきたいのが「脱気筒がどこに配置されているか」という点です。

実は、脱気筒は屋上のどこに置いても良いわけではありません。設置場所を間違えると、効果が出ないどころか、かえって雨漏りの原因を作ってしまうことさえあります。

現場で私たちが配置を決める際、最も重要視している鉄則は「水上(みずかみ)側に設置する」ことです。

一見平らに見える屋上の床(陸屋根)でも、雨水を排水口(ドレン)へ流すために、必ず1/50〜1/100程度の「勾配(傾斜)」がつけられています。この勾配の低い方を「水下(みずしも)」、高い方を「水上(みずかみ)」と呼びます。

なぜ「水上」への設置が鉄則なのか?

これには明確な理由が2つあります。

①水蒸気の性質と移動ルート

下地から発生した水蒸気は、暖められると空気より軽くなり、上昇しようとする性質を持っています。そのため、通気層の中を通って、自然と屋根の傾斜の高い方(水上)へ集まっていくのです。

最も湿気が集まる高い位置に出口を作ってあげるのが、効率的な排気のセオリーです。

②水没リスクの回避

これが最も現実的な理由です。水下(ドレン付近)は雨水が集まってくる場所です。

もし台風やゲリラ豪雨で排水が追いつかず、屋上が一時的にプールのような状態(オーバーフロー)になった場合、水下にある脱気筒は真っ先に水没してしまいます。

脱気筒が水没すると、排気口から水が逆流し、防水層の裏側に大量の水を送り込むことになってしまいます。

図面でここをチェック!NG配置の例

ドレン(排水口)のすぐ近くにある
水没リスクが最大です。絶対に避けるべき配置です。

出入り口の目の前や通路の真ん中
機能的には問題なくても、洗濯物を干す際やメンテナンス時につまづいて転倒する恐れがあります。また、蹴飛ばして脱気筒を破損させるリスクも高まります。

パラペット(立ち上がり壁)に近すぎる
壁に近すぎると、防水工事の際にローラーが入らず、確実なシール処理ができなくなるため、壁から最低でも30cm〜50cm程度離すのが理想です。

プロが実践する「効果的な配置」のテクニック

さらに一歩踏み込んで、私たちプロは以下のようなポイントも考慮して配置を微調整しています。

下地の目地(伸縮目地)の上を狙う

コンクリートの「打継ぎ目地」や、ひび割れをわざと起こさせる「誘発目地」は、下地の中で最も湿気が上がってきやすい通り道です。

注意点として、大きく動くことが前提の「構造用伸縮目地(エキスパンションジョイント)」の上には設置しませんが、盤面の目地やひび割れ(クラック)の直上を狙って設置することで、コンクリート内部の湿気をダイレクトに吸い上げることができます。

千鳥(ちどり)配置にする

広い屋上で複数の脱気筒を設置する場合、整列させるよりもジグザグ(千鳥状)に配置する方が、より広範囲の湿気をムラなく回収できます。

もしお手元の図面で、脱気筒の位置が排水口の近くになっていたり、生活動線を塞ぐような場所にあったりする場合は、施工前に施工業者へ相談し、位置を調整してもらうことを強くおすすめします。

耐用年数と点検修理のポイント

脱気筒は、一度設置してしまえば建物の寿命までずっと使えるもの、と思われている方が多いかもしれません。

確かに、ステンレス製の本体などは非常に頑丈ですが、常に屋上の紫外線や風雨にさらされているため、永久にメンテナンスフリーというわけにはいきません。

一般的に、脱気筒本体の耐用年数は、防水層の改修サイクルと同じく約10年〜15年が目安とされています。

(参考:長期修繕計画作成ガイドライン・修繕周期の目安|国土交通省)

しかし、これはあくまで「本体」の話です。現場で最も注意深く見なければならないのは、金属の筒そのものではなく、「防水層と接合している根元の部分」です。

素材による寿命の違いと劣化スピード

脱気筒の素材によっても、劣化の進み方は異なります。

  • ステンレス製
    錆びにくく耐久性は抜群ですが、もらい錆(他の鉄部からの錆移り)や塩害地域での腐食には注意が必要です。
  • 樹脂製・塩ビ製
    長期間紫外線を浴び続けることで、プラスチック特有の硬化や脆化(ぜいか)が進み、ある日突然、ボールが当たった衝撃などで割れてしまうことがあります。

プロが教える!定期点検のチェックリスト

ご自身で屋上に上がれる場合、半年に1回程度、または大型台風の通過後に目視点検を行うことを強くおすすめします。特に以下のポイントに異常があれば、すぐに私たちのような専門業者へご連絡ください。

ここを見れば劣化がわかる!点検ポイント

  • キャップ(防水帽)の消失・ズレ
    台風の強風で、頭の笠部分だけが飛んでいってしまうケースが非常に多いです。キャップがないと、脱気筒は単なる「雨水を防水層の裏側へ流し込むパイプ」になってしまい、即座に大規模な雨漏りを引き起こします。
  • 通気スリットの「詰まり」
    意外と多いのが、通気口(スリット)に泥やホコリが詰まったり、クモやハチが巣を作って塞いでしまったりするケースです。これでは湿気が逃げられず、脱気筒の意味がなくなってしまいます。
  • 根元のシール劣化(最重要)
    脱気筒は風を受けると微細に振動します。その揺れによって、足元の防水層との継ぎ目にひび割れ(クラック)や口開きが発生していないかを確認してください。ここが漏水の原因No.1です。

メンテナンスと修理の考え方

もしキャップが外れていたり、根元のシールが切れていたりした場合は、部分的な修理が必要です。軽微なシールの打ち替えやキャップの付け直し程度であれば、費用もそこまでかかりません。

しかし、「面倒だから」と放置してしまうと、そこから浸入した雨水が防水層全体をダメにしてしまい、結果として全面改修という大きな出費につながります。

脱気筒は「防水層の安全弁」です。この小さな部品をこまめにメンテナンスすることが、建物全体の防水寿命を延ばす一番の近道なのです。

耐用年数と点検修理のポイント
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

不良箇所の交換や増設を行う際の注意

長く建物を使っていれば、「台風の飛来物で脱気筒が曲がってしまった」「キャップがどこかへ飛んでいってしまった」といった物理的な破損や、「脱気筒があるのに、その周りが膨れてきた」といった機能不全に直面することがあります。

このような場合、脱気筒の交換や増設(追加設置)が必要になりますが、現場担当としてこれだけは声を大にしてお伝えしたいことがあります。

それは、「脱気筒の交換・増設をDIYで行うのは絶対にやめていただきたい」ということです。

【警告】DIYでの交換が絶対NGな理由

最近はインターネット通販などで脱気筒本体を個人でも購入できるため、「自分で交換して費用を浮かせよう」と考える方がいらっしゃいます。

しかし、脱気筒の設置は単に「置いてビスで留める」だけの作業ではありません。最も重要で難しいのは、「既存の防水層と新しい脱気筒を、水一滴通さないレベルで完全に一体化させる処理」です。

専門知識のない方がご自身で修理を行い、かえって状況を悪化させてしまった失敗例を、私は現場で何度も目撃してきました。

  • ホームセンターのコーキング材だけで隙間を埋めようとして、すぐに剥離し、そこから大量の雨水が浸入した。
  • 古い脱気筒を撤去する際、カッターで深く切りすぎて、下地の防水層やドレン周りまで傷つけてしまった。
  • 下地にドリルで穴を開ける際、コンクリートの中に埋設されている電気配管や水道管を打ち抜いてしまった(これは大事故につながります)。
  • 築年数の古い建物の場合、既存の下地材にアスベスト等の有害物質が含まれている可能性もあり、専用の集塵機なしにドリルで粉塵を舞い上げることは健康被害のリスクも伴います。

こうなってしまうと、部分補修では済まなくなり、最悪の場合は防水層の全面やり直しや、漏水による室内リフォームが必要になるなど、当初の修理費用の何倍ものコストがかかってしまうのです。

プロが行う交換手順と技術の勘所

私たちプロが脱気筒を交換する場合、単に本体を入れ替えるだけでなく、周辺の防水層を含めた「面」としての修復を行います。このプロセスには、高度な防水施工技術が必要です。

既存撤去と範囲の特定

破損した脱気筒だけでなく、その周辺の劣化した防水層を四角くカットして撤去します。湿気が溜まっている場合は、十分に乾燥させます。

下地調整とプライマー処理

露出したコンクリート下地を清掃し、新しい防水材が強力に密着するように、材質に合ったプライマー(接着剤)を丁寧に塗布します。

新規設置とアンカー固定

新しい脱気筒を設置し、強度のあるアンカーで固定します。この時、既存のネジ穴が広がって効かなくなっていることが多いため、位置をずらして新たに穿孔(せんこう)するなどの判断を行います。

最重要:接合部の防水処理

ここが腕の見せ所です。既存の防水層と脱気筒のフランジ(土台)が重なる部分に「補強用メッシュ(クロス)」を貼り付け、ウレタン防水材を塗り重ねます。

十分な「ラップ(重ね代)」を取り、段差を滑らかに仕上げることで、継ぎ目からの浸水を防ぎます。

増設が必要なサインと判断基準

また、破損していなくても「増設」が必要なケースがあります。

もし、防水工事をしてから数年しか経っていないのに、屋上のあちこちに新たな「膨れ」が発生している場合、それは「脱気筒の数が足りていない」「設置場所の選定ミス(水下にあるなど)」の可能性が高いです。

この場合、膨れている箇所(=湿気が溜まっているホットスポット)を狙って脱気筒を増設し、内部のガス抜きを行うことで、症状の悪化を食い止めることができます。

「まだ雨漏りはしていないけれど、床がボコボコしているのが気になる」という場合は、早めに点検をご依頼ください。適切な位置に脱気筒を1本追加するだけで、防水層全体の寿命を大きく延ばせる可能性があります。

不良箇所の交換や増設を行う際の注意
画像はAI生成によるイメージであり実際のものとは異なります。

仕様書や見積書の記号に関する注意点と「断熱仕様」

大規模修繕工事の仕様書や新築時の図面を見ていると、「E-1」「E-2」といった記号が記されていることがあります。

「これらは屋上の断熱仕様のことですか?」とご質問をいただくことがありますが、実は公共建築工事標準仕様書において、E-1やE-2は主に屋内防水(厨房や浴室など)の工法を示す記号です。

屋内防水は通常、脱気筒を設置しない密着工法が基本となりますので、屋上の脱気装置とは直接関係がないケースがほとんどです。

一方で、屋上防水において脱気装置の設置と深く関わってくるのは、記号よりも「断熱仕様(断熱材が入っているか)」という点です。

屋上防水の断熱仕様と脱気筒の関係

屋上のアスファルト防水などでは、以下の2つの仕様で脱気筒の重要性が変わってきます。

露出断熱工法(断熱仕様)

防水層の下に断熱材を敷き込む工法です。断熱材によって下地の湿気が逃げ場を失いやすいため、脱気装置の設置が絶対条件となります。アスファルト防水では「D種」や「DI」などの記号で表されることが多いです。

露出工法(非断熱仕様)

断熱材を入れない仕様です。ただし、下地コンクリートに水分が含まれている場合は、やはり絶縁工法(通気工法)を採用して脱気筒を設置するのが、建物を長持ちさせるための定石です。

もしお手元の見積書や仕様書に「断熱」という文字があれば、それは「脱気装置が絶対に欠かせない工事」であることを意味します。

記号だけで判断せず、どのような断熱材を使い、どのように湿気を逃がす計画になっているか、業者に確認することをおすすめします。

まとめ:防水工事の脱気装置で建物を守る

ここまで、防水工事における脱気装置(脱気筒)の重要性について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。屋上やベランダの片隅にひっそりと佇むその姿は、決して目立つものではありません。

しかし、この小さなステンレスや樹脂の筒一つが、皆様の大切な資産である建物を、目に見えない水蒸気の圧力から24時間365日守り続けているのです。

特に、雨漏りが発生してからの改修工事や、築年数が経過して水分をたっぷり含んだコンクリート下地の防水工事において、脱気装置の有無は「工事の成功」を左右する決定的な要素となります。

通気緩衝工法とセットで適切に設置することは、もはやオプションではなく、防水層の寿命を全うさせるための「必須条件」と言っても過言ではありません。

脱気装置がもたらす長期的なメリット

  • コストパフォーマンスの向上
    わずかな追加費用で防水層の早期劣化を防ぎ、次回の改修までの期間を延ばすことができます。
  • 安心感の確保
    「いつまた膨れてくるか分からない」という不安から解放され、長期的な防水保証の対象となるケースも増えます。
  • 資産価値の維持
    見た目がきれいで健全な防水層を維持することは、建物全体の資産価値を守ることにつながります。

防水工事の見積書を見た際、「この脱気筒という項目は本当に必要なのかな?」と迷われることがあるかもしれません。

しかし、ここでコストを削ってしまうと、数年後にまた膨れや破断が発生し、結果として高額な再工事費用がかかってしまうリスクがあります。

信頼できる業者は、建物の将来を見据えて、必ず適切な脱気計画を提案してくれるはずです。

「うちの屋上は今のままで大丈夫?」「すでに見積もりを取っているけど、脱気筒の数が適正か知りたい」といった疑問や不安をお持ちの方は、ぜひお気軽にステップペイントまでご相談ください。

現場を知り尽くした私たちが、お客様の建物の状況に合わせた最適な防水プランをご提案させていただきます。小さな疑問一つからでも、誠心誠意対応いたします。


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